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盛岡地方裁判所 平成3年(行ウ)3号 判決

原告

株式会社ヒノヤタクシー

右代表者代表取締役

大野泰一

右訴訟代理人弁護士

大沢三郎

被告

岩手県地方労働委員会

右代表者会長

畑山尚三

右指定代理人

藤原博

砂子沢勝男

米本清一

松岡博

右被告補助参加人

全国自動車交通労働組合連合会岩手地方本部盛岡支部ヒノヤ分会

右代表者執行委員長

藤田良文

右訴訟代理人弁護士

石橋乙秀

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

被告が、岩労委昭和六三年(不)第三号不当労働行為救済申立事件について、平成三年三月一九日付けでした命令(以下「本件救済命令」という。)を取り消す。

第二事案の概要

本件は、原告が補助参加人及びその所属組合員に対し、賃金、観光要員の選任、長距離配車及び乗務員に対する車両の割当てについて差別的取扱いを行っているとして被告がした本件救済命令に関し、原告が、事実誤認の違法があると主張して、その取消を求めたものである。

一  争いのない事実

1  当事者

原告は、肩書地に本社を置き、北大橋、山岸、都南、日詰にそれぞれ営業所を設けて旅客運送業を営む株式会社であり、補助参加人は、原告の従業員で構成される労働組合であって、昭和四二年にヒノヤタクシー労働組合として結成された後、昭和五八年四月に全国自動車交通労働組合連合会岩手地方本部盛岡支部に加盟して、現在の名称に改めたものである。なお、昭和五八年に、原告の従業員で構成される労働組合として、補助参加人とは別に全国交通運輸労働組合総連合東北支部ヒノヤタクシー労働組合(以下「別組合」という。)が結成されて、現在に至っている。

2  賃金配分率(以下「賃率」という。)について

原告の乗務員に対する賃金の支払方法は完全歩合給制であり、かつては年次有給休暇の補償を含めて稼働営業収入額の五〇パーセントを賃率と定めて支給されてきたが、原告と補助参加人との間では、昭和五八年八月一九日に締結された協定により、年次有給休暇について、これを取得する都度標準報酬日額を支給することとして補助参加人所属乗務員の賃率を四八・五パーセントに改める旨の合意がなされた。

原告と別組合との間では、昭和五八年の別組合結成当時、従前のとおり年次有給休暇補償分を含めて賃率を五〇パーセントとする合意がなされたが、昭和六二年五月一三日に締結された協定により、別組合所属乗務員の賃率を五一パーセントに改める旨の合意がなされた。

3  観光要員の選任について

原告においては、あらかじめ原告が観光要員として選任した者について観光ハイヤーを配車しており、昭和五九年までは、補助参加人所属乗務員も観光要員に選任されていたところ、昭和六〇年以降、原告は、補助参加人所属乗務員から観光要員を選任しなくなり、したがって、これに観光ハイヤーを配車することもしなくなった。

4  長距離配車について

原告において料金が一万円以上となる長距離輸送については、赤十字血液センターから岩手県内の各病院への血液の輸送と岩手医科大学から釜石製鉄所病院等への医師の輸送が大きな比重を占めているところ、昭和六二年に、右血液輸送において補助参加人所属の一乗務員があらかじめ聞いていた輸送先と荷札の宛先が異なっていたことを原因として輸送先を取り違えるという事故を起したため、原告は、その後、同種事故の防止を目的として右血液及び医師の輸送を観光要員の業務とした。

そして、右3のとおり、補助参加人所属乗務員は昭和六〇年以降観光要員に選任されていないので、補助参加人所属乗務員が右血液及び医師の輸送に関与することがなくなり、長距離輸送における補助参加人所属乗務員に対する配車は別組合所属乗務員に対する配車に比して少数となっている。なお、昭和六三年五月及び一二月における右配車の状況は、別表1(略)のとおりである。

5  本件救済命令の存在

補助参加人は、被告に対し、昭和六三年一一月二二日、原告を被申立人として、原告が、賃金、乗務員に対する車両の割当て、長距離配車、観光要員の選任に関して補助参加人及びその所属組合員を差別的に取り扱っていること並びに補助参加人所属組合員に対して組合からの脱退勧奨を行っていることが、いずれも不当労働行為に該当すると主張し、その救済命令の申立をした。被告は、これを岩労委昭和六三年(不)第三号不当労働行為救済命令申立事件として審理し、平成三年三月一九日、次の内容の救済命令をし、同月二五日、右命令書を原告に交付した。

(一) 原告は、別組合所属組合員に対してのみ賃率を引き上げたため補助参加人所属組合員に生じた格差を是正しなければならない。

(二) 原告は、乗務員に対する車両の割当て、長距離配車及び観光要員の選任について、補助参加人所属組合員と別組合所属組合員とを差別扱いをしてはならない。

(三) 原告は、左記のとおり、縦一メートル、横二メートルの白紙の全面に楷書で墨書し、本命令書交付の日から五日以内にこれを原告の本社及び各営業所における従業員の見やすい場所に一〇日間掲示しなければならない。

年 月 日

全国自動車交通労働組合連合会岩手地方本部盛岡支部ヒノヤ分会

執行委員長 藤田良文殿

株式会社ヒノヤタクシー

代表取締役 大野泰一

当社が、全国交通運輸労働組合総連合東北支部ヒノヤタクシー労働組合所属組合員に対してのみ賃率を上げて貴組合所属組合員に格差を生じさせたこと、乗務員に対する車両の割当て、長距離配車及び観光要員の選任について、貴組合所属組合員と全国交通運輸労働組合総連合東北支部ヒノヤタクシー労働組合所属組合員とを差別扱いしていることは、今般岩手県地方労働委員会において、労働組合法七条一号及び三号に該当する不当労働行為と認定されましたので、今後このような行為を繰り返さないことを誓約いたします。

(四) その余の請求を棄却する。

そして、原告は、同月二九日から同年四月七日まで一〇日間にわたり、本件救済命令のうち右(三)項のポストノーティス(誓約文)の掲示を行った。

二  争点及びそれに対する当事者の主張

1  本案前の争点

(一) 被告の主張

原告は、被告が原告に対して履行すべきものとして命じたポストノーティスを掲示したことにより、補助参加人に対する不当労働行為を自認したものであり、これに基づいて団体交渉を継続してきたのであるから、それにも拘らず本訴を提起することは、信義誠実の原則に反し、訴権の濫用に当たるものというべきであって、本訴は不適法として却下されるべきである。

(二) 原告の反論

原告は、本件救済命令については不服があったものの、これを契機に補助参加人との関係を改善し、労使関係の正常化を図る意図の下に、ポストノーティスを掲示し、補助参加人と交渉を継続したものであるが、原告と補助参加人との間で、本件救済命令の内容やその実施時期等に関する解釈や理解に隔たりがあることが判明した。そこで、もともと承服し難い点のあった本件救済命令について、その取消を求めて本訴に及んだものである。したがって、原告、被告、補助参加人間に本件救済命令を基礎とする諸関係を尊重し維持すべき状況が生じたものとはいい難く、本訴を提起したからといって信義誠実の原則に反するものとはいえない。また、ポストノーティスを掲示し、補助参加人と団体交渉を行ったからといって、本件救済命令の違法が治癒されると解することはできないから、訴権の濫用となるものでもない。

2  本案の争点

(一) 賃率における差別的取扱い

前記一2のとおり、原告が、昭和六二年五月一三日に別組合との間で賃率を五一パーセントとする協定を締結したことが、補助参加人及びその所属組合員に対する不当労働行為となるか。

(1) 被告及び補助参加人の主張

企業内に複数の労働組合が存する場合、賃率が労働協約によって定められ、その結果、組合間に差が生じたとしても、その一事をもって直ちに不当差別があるとはいえないが、これが不当差別でないとするには、差があることについて合理的な理由を要するものである。

本件において、原告が別組合との間だけで賃率を引き上げた理由について、原告は、当初、補助参加人と別組合との間で勤務時間に関する協定が異なり、別組合所属乗務員の月間総労働時間の方が長いこと、補助参加人との間に労働協約が締結されていないことを理由としていたが、その後、労働協約が締結されていないことを理由から除くとともに、補助参加人所属乗務員が年次有給休暇を取得した際の補償額を含めた総支給額の稼働営業収入額に占める割合(以下この割合のことを「年休補償を含む実質賃率」という。)が、年次有給休暇を完全取得した場合において、別組合の賃率を上回ることを理由に挙げるようになった。さらに、原告は、勤務時間が異なるという当初に挙げていた第一の理由を撤回し、右の年休補償を含め実質賃率の問題のみを理由とするに至り、結局、別組合との間だけで賃率を引き上げた理由を全面的に変更した。右経緯に照らせば、原告は、勤務時間が異なるという理由が維持できなくなったため、改めて種々具体的な再計算を行った結果、年休補償を含む実質賃率の問題を強調するようになったものと推測されるところである。そうだとすれば、そもそも別組合との間だけで賃率を引き上げるについて、合理的な理由はなかったものというべきであるのみならず、このように何ら合理的説明を行えないことからすれば、補助参加人を意図的に差別する意思をもって、別組合の賃率を引き上げ、その結果、補助参加人と別組合にそれぞれ所属する乗務員の間に賃率の格差を生じさせているものと推認される。

以上によれば、原告は、補助参加人所属組合員に対し、補助参加人に加入していることの故に、賃金を不利益に取扱っているものといわざるを得ず、同時に、これによって補助参加人の組合運営に支配介入するものというべきであるから、原告の右行為は、労働組合法七条一号及び三号に該当する不当労働行為である。

(2) 原告の反論

原告と補助参加人との間で昭和五八年八月一九日に締結した協定において、年次有給休暇補償分を別途支給することとして賃率を五〇パーセントから四八・五パーセントと改定したのは、年次有給休暇を完全に取得した場合の補償額が稼働営業収入額に対して二・一一パーセントを占めるという当時の調査結果に基づき、団体交渉を経て合意された結果である。その後、昭和六二年に至って従前の賃率が実勢に合わなくなり、年次有給休暇補償分を含めて賃率を五〇パーセントとしていた別組合から、補助参加人との対比において別組合の賃率が低過ぎて不利益であるから賃率を五一パーセントに引き上げるように要求された。そこで、原告が再調査したところ、補助参加人所属乗務員が年次有給休暇を完全取得した場合の年休補償を含む実質賃率は、平均して五〇・七ないし五〇・八パーセントとなることが確認されたため、補助参加人と別組合との賃金格差を是正することを目的として、昭和六二年五月一三日に別組合との間で賃率を五一パーセントとする協定を締結したものである。したがって、別組合との間で賃率を引き上げたことには、両組合間の賃金の公平を図るという合理的な理由があり、かつ、補助参加人と別組合との賃金比較をする方法も、昭和五八年当時と同様に、年次有給休暇を完全取得した場合の年休補償を含む実質賃率を算定するという合理的なものであるから、何ら不当な差別を行うものではない。

なお、補助参加人所属乗務員が年次有給休暇を完全取得した場合の年休補償を含む実質賃率は、昭和六三年度及び平成元年度において、それぞれ五〇・七八パーセント及び五〇・八一パーセントとなっているから、原告の右調査結果は正当なものであり、かつ、別組合の賃率五一パーセントと比較して僅かな差異しかないのであるから、現在賃金格差を生じさせているものともいえない。

よって、本件救済命令には、事実を誤認した違法がある。

(3) 補助参加人の原告に対する再反論

原告と補助参加人との間で、昭和五八年八月一九日に賃率を四八・五パーセントに改める協定を締結した際、年休補償を含む実質賃率に基づいて交渉したことはなく、ましてや年次有給休暇を完全に取得するという前提での試算を行ったことはない。

仮に、原告主張のように年休補償を含む実質賃率により、補助参加人と別組合との賃金格差を比較すべきものとしても、補助参加人所属乗務員は有給休暇を取得するよりも現実に稼働した方が多額の賃金を得ることができるため、年次有給休暇を完全に取得することを前提とする試算は公平ではなく、実際に取得した有給休暇日数を前提に試算すべきであり、これによれば、補助参加人所属乗務員の昭和六三年度及び平成二年度における年休補償を含む実質賃率は、それぞれ四九・七八パーセント及び五〇・〇一パーセントとなり、別組合の賃率を引き上げる前の五〇パーセントの賃率と均衡しているものである。

(二) 観光要員の選任における差別的取扱いについて

前記一3のとおり、原告が、昭和六〇年以降、補助参加人所属乗務員から観光要員を選任しないでいることが、補助参加人及びその所属組合員に対する不当労働行為となるか。

(1) 被告及び補助参加人の主張

原告において、観光要員に選任されて観光ハイヤーの業務に従事すると多額の稼働営業収入を得ることができ、かつ、前記一4のとおり、観光要員に選任されないと長距離配車を受ける可能性が少なくなるため、こまめに客を拾わなければならなくなるなど、必然的に客を乗車させる回数が多くなり、長距離配車を受けた者と比べ労働強化となるとともに、その精神的負担にも無視し得ないものがある。このように、原告が、補助参加人所属乗務員を観光要員に選任しないことは、補助参加人所属乗務員に対する不利益な取扱いであるといえる。

そして、原告は、補助参加人との間で観光要員の争議不参加に関する協定が締結されていないために、補助参加人所属乗務員から観光要員を選任できない旨主張するが、昭和六一年一二月三〇日に原告と補助参加人との間で締結された協定では、補助参加人が観光要員の選任基準に同意する旨の合意があり、これにより争議不参加協定の問題については解決されたものというべきである。むしろ、原告は、昭和六二年に補助参加人との間で具体的な観光要員の選任について交渉していたものの、補助参加人所属組合員の中に管理職に対して非礼な者がいるとの理由で、右交渉を打ち切ったのであり、仮に原告主張のとおり補助参加人所属組合員に非礼な者がいたとしても、一部組合員の非礼をとらえて組合員全体に関わる観光要員問題の交渉を打ち切る態度は理解し難いものであって、単に非礼に対する反省を求めるという以上の差別的な意図が窺われるところである。

以上によれば、原告は、補助参加人所属組合員に対し、補助参加人に加入していることの故に、観光要員に選任しないという不利益な取扱いをしているものといわざるを得ず、同時に、これによって補助参加人の組合運営に支配介入するものというべきであるから、原告の右行為は、労働組合法七条一号及び三号に該当する不当労働行為である。

(2) 原告の反論

観光ハイヤーの業務を安定的に円滑かつ迅速に行うためには、同業務に就労する者が、争議に参加することによって、突発的集団的に就労不能となる事態を避けねばならないため、原告は、補助参加人に対して、観光要員に選任された者は一切労働争議に参加しない旨の協定を締結するように求めてきたところ、補助参加人はこれを拒否しており、自ら観光要員に選任される途を閉ざしているものである。被告は、昭和六一年一二月三〇日に協定が成立したものと主張するが、原告は、当時も観光要員の一切の争議不参加を求めていたのであって、その旨の合意はなかったものである。

したがって、原告が補助参加人所属乗務員を観光要員に選任しないことには正当な理由があるものというべきであり、何ら不当労働行為となるものではない。

よって、本件救済命令には、事実を誤認した違法がある。

(三) 長距離配車における差別的取扱いについて

前記一4のとおり、補助参加人所属乗務員と別組合所属乗務員との間で、長距離配車に差異を生じていることが、原告による補助参加人及びその所属組合員に対する不当労働行為となるか。

(1) 被告の主張

タクシー業務に従事する者にとって、長距離配車を受けられない場合は、前記二2(二)(1)のとおり、こまめに客を拾う必要があることなどにより、長距離配車を受けた者と比べ労働強化になるとともに、その精神的負担にも無視し得ないものがある。このように、原告が、長距離輸送において補助参加人所属乗務員に対する配車に関し、別組合所属乗務員に対する配車と差異を生じさせていることは、補助参加人所属乗務員に対する不利益な取扱いであるといえる。また、原告が、前記一4のとおり、補助参加人所属の一乗務員が輸送先を取り違えるという事故を起こしたことから、血液及び医師の輸送を観光要員の業務としたことについては、当時既に補助参加人所属乗務員を観光要員に選任しなくなっていたことと考え合わせれば、右一事故をとらえて、それまで長年運転業務に従事してきて当該業務についても経験を持っている補助参加人所属のベテラン乗務員までを一律に排除することとなり、単に同種事故を防止するという以上の差別の意図を推認させるものである。

以上によれば、原告は、補助参加人所属組合員に対し、補助参加人に加入していることの故に、長距離配車を受ける可能性を少なくするという不利益な取扱いをしているものといわざるを得ず、同時に、これによって補助参加人の組合運営に支配介入するものというべきであるから、原告の右行為は、労働組合法七条一号及び三号に該当する不当労働行為である。

(2) 原告の反論

長距離輸送における配車について、補助参加人所属乗務員と別組合所属乗務員との間で差異を生じているのは、血液及び医師の輸送を観光要員の業務としていることの結果であり、かつ、補助参加人所属乗務員から観光要員を選任していないことについては、前記二2(二)(2)のとおり、正当な理由があるから、何ら不当労働行為となるものではない。

よって、本件救済命令には、事実を誤認した違法がある。

(四) 車両割当てにおける差別的取扱いについて

原告が、車両割当てに関して、補助参加人所属乗務員に対し、別組合所属乗務員と異なる取扱いをしているかどうか。異なる取扱いをしているとすれば、これが補助参加人及びその所属組合員に対する不当労働行為となるか。

(1) 被告の主張

原告においては、従前、乗務員に対する車両の割当てについて、概ね在社年数の長い者の順に新車が優先的に割り当てられるとともに、常に同一の車両に乗務することとなるように担当する車両が決められていて、その担当車両が廃車になったときは新車を割り当てられるという方法がとられていた。

しかし、昭和六一年初めに原告と補助参加人との間で紛争が表面化し、補助参加人が、同年五月ころから時限ストライキを、同年九月一三日から一〇月六日ころにかけてストライキを行ったところ、その直後から、補助参加人所属乗務員が同一車両を担当することがなくなるとともに、補助参加人所属乗務員に対し、初年度登録後概ね三年以上を経過した古い車両(これに対し、新しい車両とは初年度登録後概ね一年以内のものをいう。)が交替で割り当てられるようになり、その後も同じ状態が続いている。そして、昭和六三年五月及び一二月の本社並びに北大橋、山岸及び都南の各営業所における補助参加人所属乗務員と別組合所属乗務員などとの新旧車両の割当て及び担当車両の割当て状況は、別表2(略)、3(略)のとおりである。

この間、昭和六一年六月ころ、補助参加人所属乗務員の一人は、原告本社営業所長から「全自交は新車に乗せない。社長の命令だ。」などといわれて新車の担当を外され、また、従前別組合所属乗務員が皆無であった山岸営業所では、昭和六三年一〇月下旬、補助参加人の前年度書記長が補助参加人を脱退して別組合に加入したところ、同営業所に別組合所属組合員九名及び嘱託二名が配属されるとともに新車七台が配車され、右前年度書記長を含む別組合所属乗務員が当該新車の車両担当者となり、さらに、同営業所の補助参加人の前年度副委員長は、同時期、従前担当していた車が廃車となった後、担当を外されて毎日違う車を割り当てられている。

右によれば、原告が、車両割当てに関して、補助参加人所属乗務員に対し、別組合所属乗務員と異なる取扱いをしていることが明らかである。

そして、補助参加人所属乗務員は、古い車両を割り当てられることにより、通常乗り心地の悪い車両での就業を余儀なくされ、また、車両の担当を外されることにより、毎日それぞれ調子の異なる車両に乗務することとなるから、その精神的負担には無視し得ないものがある。さらに、洗車等の面で新車を割り当てられている者より過重な労力を費やし、残業もしにくくなるなど経済的な不利益を被るおそれも十分にあるところである。したがって、原告が、車両割当てに関して、補助参加人所属乗務員に対し、別組合所属乗務員と異なる取扱いをしていることは、補助参加人所属乗務員を不利益に取扱っていることになるというべきであり、右原告本社営業所長の発言にもみられるとおり、原告は、補助参加人を差別する意図で、右の不利益な取扱いを行っているものといわざるを得ない。

以上によれば、原告は、補助参加人所属組合員に対し、補助参加人に加入していることの故に、車両の担当を外し、古い車両を割り当てるという不利益な取扱いをしているものといわざるを得ず、同時に、これによって補助参加人の組合運営に支配介入するものというべきであるから、原告の右行為は、労働組合法七条一号及び三号に該当する不当労働行為である。

(2) 原告の反論

原告が、車両の割当てに関して、補助参加人所属乗務員と別組合所属乗務員とを区別して取り扱っていることはない。但し、観光要員には新車を優先して割り当てており、補助参加人所属乗務員が観光要員に選任されていない結果、別組合所属乗務員に優先的に新車が割り当てられる状況はあるものの、補助参加人所属乗務員から観光要員を選任していないことについては、前記二2(二)(2)のとおり、正当な理由があるから、何ら不当労働行為となるものではない。

よって、本件救済命令には、事実を誤認した違法がある。

第三争点に対する判断

一  本案前の争点について

原告が、本件救済命令に基づき、平成三年三月二九日から同年四月七日まで、ポストノーティスの掲示を行ったことは争いのない事実であるところ、被告の主張するとおり、一般に、ポストノーティスは、使用者が不当労働行為を繰り返さないことが専ら使用者の意思にかかることに着目し、使用者に対する心理的効果を期待して行われる救済命令であるから、使用者がポストノーティスを掲示することは、使用者が自己の行為を不当労働行為であると自認したものと評価することができないわけではない。

しかし、右のように解される余地があるとしても、使用者が救済命令に従ってポストノーティスを掲示したからといって、直ちに、救済命令取消訴訟を提起できなくなるものということはできない。

すなわち、労働委員会の発する救済命令は、命令の交付の日から効力を有するものであり、申立を認容する命令につき命令書の写しが交付されたときは、使用者は、遅滞なくその命令を履行しなければならないものである(労働委員会規則四五条一項)。したがって、救済命令を受けた使用者が、その命令に不服がある場合には、右命令を履行しつつ、再審査の申立又は右命令の取消訴訟を提起すべきこととなるのである。このことは、ポストノーティス命令についても異なるところはないのであるから、使用者がポストノーティスの掲示を行うことは、救済命令の効力に基づく当然の義務であるというべきであって、右命令に不服のある使用者は、ポストノーティスを掲示しつつ、右命令の取消訴訟を提起せざるを得ないこととなる。そうすると、ポストノーティスには右のように不当労働行為を自認する趣旨があるからといって、これを掲示したという一事をもって、その救済命令取消を求める訴えが、信義誠実の原則に反することになったり、訴権の濫用に当たったりするとは到底いえないものといわざるを得ない。

よって、被告の本案前の主張は採用できない。

二  本案の争点について

1  賃率における差別的取扱いについて

(一) 争いのない事実によれば、昭和五八年の時点において、原告と補助参加人との間では、年次有給休暇の補償について、別途標準報酬日額を支給することとして賃率を四八・五パーセントとしたのに対し、原告と別組合との間では、年次有給休暇補償分を含めて賃率を五〇パーセントとしたのであるから、原告、補助参加人及び別組合の間では、年次有給休暇補償分が賃率にして一・五パーセントに相当するものとの共通の認識があり、それぞれこれに納得していたものといわなければならない。そして、昭和六二年に至るまで、右賃率が維持されてきているのであるから、右状態で、補助参加人と別組合間の実質的な賃金が均衡しているものと考えられていたというべきである。そうだとすれば、原告が、昭和六二年五月一三日に、別組合との間だけで賃率を一パーセント引き上げたことは、それ自体が補助参加人と別組合との間に格差を生じさせる差別的な取扱いであり、補助参加人及びその所属組合員に対する不利益取扱いとなるものといわざるを得ない。したがって、原告において、右格差を生じさせる措置が合理的な理由に基づくものであることを主張、立証しない限り、不当労働行為の要件である不利益取扱いの事実があるものというべきである。

(二) そこで、原告の主張する理由(補助参加人所属乗務員が年次有給休暇を完全取得した場合の年休補償を含む実質賃率が別組合の賃率より高いため、その賃金格差を是正する目的だとする。)について判断する。

(証拠略)によれば、原告が別組合との間だけで賃率を引き上げた後の昭和六二年九月一日に行われた原告と補助参加人との団体交渉において、補助参加人が原告に対し、別組合に対する賃率引き上げを理由に補助参加人に対しても賃率を引き上げるように要求した際、原告は、別組合との間で賃率を引き上げた理由は、年次有給休暇の補償分と総労働時間とにおいて補助参加人と別組合との間で差異があるからだと説明し、何ら差別にならないとの見解を示したほか、右理由としては他にもいろいろ一〇位あるが、他の理由はいえない旨の回答をしたこと、原告の営業課長大野尚彦(以下「尚彦課長」という。)は、昭和六三年六月三〇日に行われた別件の証人尋問において、右理由として、補助参加人と別組合とで総労働時間に差があることと補助参加人との間では労働協約が締結されていないことを挙げているが、同年一〇月一六日の続行期日において、補助参加人との間で労働協約が締結されていないことは理由にならないとして、この点を撤回し、別組合の労働時間が増えたことを右理由として説明していたこと、このころ、尚彦課長個人としては、別組合に早朝出勤があって総労働時間が長いことと補助参加人との間では労働協約が締結されていないことのほかには右の理由となる事由がないと考えていたこと、尚彦課長は、平成元年五月一九日に行われた地方労働委員会における本件第三回審問期日における供述でも、別組合に早朝出勤があって総労働時間が長いことを右理由として挙げたほか、この時になって初めて、補助参加人所属乗務員が年次有給休暇を完全取得した場合、年休補償を含む実質賃率が、平均で五〇・七ないし五〇・八パーセントになることを右理由として主張し始めたこと、さらに、尚彦課長は、同年七月六日の本件第四回審問期日における供述で、それまでの供述を全面的に訂正し、総労働時間の差については別組合の賃率引き上げと直接の関係がないとして、賃率に格差を生じさせた理由は年休補償を含む実質賃率の格差を是正するためだったと供述するに至り、右のように供述を訂正したことについて、後から計算してみると年休補償を含む実質賃率の問題が一番大きな理由になると思ったと説明していること、原告の専務取締役大野耕平(以下「耕平専務」という。)は、同年八月三日の本件第五回審問期日において、耕平専務自身が右一連の尚彦課長の供述に常に立会い、その供述の誤りを訂正できる立場にいたことを認めながら、右尚彦課長の従前の供述は、勘違い、計算違い、認識不足であるとして、耕平専務なりに計算した結果、尚彦課長の間違いを発見した旨供述していること、右のような供述の変遷を経た上で、原告は、平成二年六月二九日の本件第一二回審問期日において初めて、別組合との間だけで賃率を引き上げた理由に言及し、本訴における主張と同様の理由を主張し始めたことが認められる。これによれば、原告が主張する理由は合理的な説明のないまま変遷しており、尚彦課長及び耕平専務の各供述はいずれも信用できないといわざるを得ない。

また、原告は、昭和五八年に補助参加人との間で年次有給休暇の補償を別途支給することで賃率を四八・五パーセントと定めた際には、補助参加人所属乗務員が年次有給休暇を完全に取得した場合の年休補償を含む実質賃率を算定して、これを基礎に合意したのであるから、昭和六二年に別組合との間で賃率を引き上げた際に、右と同様に年次有給休暇を完全取得した場合の年休補償を含む実質賃率を基に算定したのは合理的である旨主張し、(証拠略)によれば、地方労働委員会において、尚彦課長及び耕平専務がこれに沿う供述をしていることが認められる。しかしながら、(人証略)によれば、右昭和五八年、同六二年の際に年休補償を含む実質賃率を計算する資料としたものは、計算の要点をメモした程度のノートなどへのメモ書きであったが、これらの資料は、本件の労働委員会への救済命令申立後ないし本訴提起後に紛失したというのであるところ、本件紛争に関し原告にとって決定的に重要な右資料を紛失してしまうというのは極めて不可解であって、右資料の存在について重大な疑念を抱かざるを得ないところである。そうだとすれば(証拠略)の尚彦課長及び耕平専務の供述は信用できず、原告の右主張は採用することができない。

むしろ、右に認定した原告の主張の変遷やその根拠資料の不存在という事実からすれば、昭和六二年に原告が別組合との間で賃率を引き上げた際には、年休補償を含む実質賃率の比較という理由が漠然と意識されていただけで、明確な理由は何らなかったものであるところ、これが補助参加人との間で紛争となったため、後に種々計算を試みた結果、年次有給休暇を完全取得した場合の年休補償を含む実質賃率の計算結果において、何とか辻褄の合う数字を発見し、これを主張するに至ったのではないかとの疑念を払拭できないところである。

また、尚彦課長の供述によっても、昭和六二年の時点で、補助参加人所属乗務員が年次有給休暇を完全取得した場合の年休補償を含む実質賃率が五〇・七パーセントから五〇・八パーセントであったというのに、さらに上乗せして五一パーセントにまで別組合の賃率を引き上げたのはなぜか、その点の合理的説明もない。

以上によれば、原告が別組合との間だけで賃率を引き上げた際、そもそも原告がいかなる理由をもってこれを行ったのかすら明確でなく、原告の主張する前記賃金格差の是正が理由であったとは認めるに足りないうえ、他に、右理由として、原告は何ら主張、立証しないから、原告が別組合との間だけで賃率を引き上げたことに合理的な理由があったとは認め難く、右差別的な賃率の引き上げは、補助参加人及びその所属組合員に対する不利益取扱いに該当するものというべきである。

(三) ところで、原告は、賃率引き上げの際の理由とは別に、結果として、補助参加人と別組合との間の現在の賃率の差は、年休補償を含む実質賃率によって比較すると、僅かな差異しかないから、賃金格差があるとはいえない旨主張するので、この点について判断する。

(証拠略)及び弁論の全趣旨によれば、原告の主張する年休補償を含む実質賃率の試算方法は別紙4(略)のとおりであるところ、補助参加人所属乗務員が年次有給休暇を完全に取得したと仮定して試算した年休補償を含む実質賃率は、昭和六三年度及び平成元年度において、それぞれ五〇・七八パーセント及び五〇・八一パーセントとなることが認められる。しかし、他方で、右証拠及び(証拠略)によれば、補助参加人所属乗務員それぞれの一日当たりの稼働営業収入額に四八・五パーセントの賃率を乗じた一日当たりの歩合給の額は、年次有給休暇の補償分としての標準報酬日額を遙かに上回ること、したがって、補助参加人所属乗務員は、年次有給休暇を取得すれば取得するほど、現実に支給される賃金額が減少することになること、他方、右試算による年休補償を含む実質賃率は、年次有給休暇を完全取得したと仮定した稼働営業収入額に対して、仮定上支払われる歩合給額の割合が、まさに約定の四八・五パーセントの賃率となるのであるから、年休を取得すればするほど増加する年休補償額を、年休を取得すればするほど減少する稼働営業収入額で除した率によって左右されることになること、したがって、右試算による年休補償を含む実質賃率は、年次有給休暇をより多く取得すると仮定すればするほど、上昇する結果になること、そして、原告の右試算方法に従い、補助参加人所属乗務員が現実に取得した有給休暇日数に基づいて試算すると、年休補償を含む実質賃率は、昭和六三年度及び平成元年度において、それぞれ四九・七八パーセント及び五〇・〇一パーセントとなること(ただし、右の試算において現実の有給休暇日数としているのは、規定出勤日数から現実の出勤日数を差し引いたものであるが、この中には、欠勤や病欠なども含まれていることが明らかであるから、現実の有給休暇日数は更に減少するものであり、したがって、年次有給休暇をより多く取得すると仮定すればするほど右実質賃率が上昇する結果になるという右に述べた事情が反対に作用することにより、右賃率は更に減少するものである。)、昭和五八年に、補助参加人所属乗務員に年次有給休暇の補償を別途支払うこととした際に、年次有給休暇を完全に取得した場合の右補償額が稼働営業収入額に占める割合は二パーセントを越えていたものの、交渉の結果これを一・五パーセントとして、賃率を四八・五パーセントに定めたことが認められる。

以上によれば、年次有給休暇を取得すればするほど右試算にかかる実質賃率が上昇し、完全取得すると五一パーセントに近くなる反面、逆に取得日数が少なければ少ないほど実質賃率が低下し、一日もとらないと四八・五パーセントになるから、補助参加人所属乗務員としては年休取得日数が一定数を越えると実質賃率が五〇パーセントを越えて従前より有利になるが、一方、年休補償の基準となる標準報酬日額は一日当たりの歩合給額より極めて低廉で、年休を取得すればするほど現実の支給金額が低くなるから、収入の確保のためには余り多くの年次有給休暇を取得することができないのが現実であり、昭和五八年の賃率の協定の際にも、これらの事情をふまえて、賃率の下げ幅を、年休完全取得の場合の補償額の割合よりも軽減して一・五パーセントにとどめ、これをもって、実質的に従前の賃率五〇パーセントと均衡を保つと認識されたものというべきである。そうすると、今となって年次有給休暇を完全取得した場合の年休補償を含む実質賃率を前提に、別組合の賃金との格差を論ずることは当を失するものといわざるを得ない。むしろ、右のとおり、仮に原告の試算方法に則るとしても、補助参加人所属乗務員の現実に取得した年次有給休暇日数を前提に試算すれば、昭和六二年に賃率を引き上げる前の別組合との間の賃率五〇パーセントと比較し、補助参加人所属乗務員の右実質賃率は、これと均衡しているか、やや低率であるというべきである。

以上によれば、補助参加人と別組合との間の現在の賃率の差は、年休補償を含む実質賃率によって比較すると、僅かな差異しかないから賃金格差はないとする原告の主張は採用することができず、別組合との間で賃率を一パーセント引き上げたことにより、補助参加人と別組合との間では、賃率一パーセント相当の賃金差別があるものといわなければならない。

2  観光要員の選任における差別的取扱いについて

(一) (証拠略)によれば、原告において観光要員に選任されて観光ハイヤーの業務に従事すると多額の稼働営業収入を得ることができること、さらに、長距離輸送業務に従事した場合と同様の稼働営業収入を短距離輸送で得るためには、必然的に相当回数にわたって客を乗車させることが必要となり、乗務員としては必死になって客を拾うことを強いられ、これによる肉体的、精神的な負担は無視できないものであることが認められる。そして、争いのない事実(前記第一、一4)によれば、原告において料金が一万円以上となる長距離輸送について大きな比重を占めている血液及び医師の輸送については、観光要員に選任された者のみに配車されているのであるから、観光要員に選任されないと、観光ハイヤー業務による多額の稼働営業収入を得る可能性を閉ざされ、長距離輸送業務に関わる可能性も相当に低くなることにより労働強化と精神的負担を強いられることとなるので、観光要員に選任されない者は観光要員より不利益な取扱いを受けることになるといわなければならない。

なお、(証拠・人証略)によれば、原告の観光要員は、原告があらかじめ定めた基準にしたがって、原告が選任するものと認められるから、補助参加人所属乗務員全員が観光要員に選ばれるものとはいえず、補助参加人所属乗務員から観光要員が選任されないことは、補助参加人の組合自体に対する不利益な取扱いにはなるとしても、必ずしも補助参加人に所属する個々の組合員に対する不利益な取扱いにはならないのではないかとの疑問もあり得るが、補助参加人所属乗務員は、補助参加人に加入しているという一事をもって、観光要員に選任される可能性を全く失い、常に右認定の不利益を甘受しなければならない立場に立たされていることとなるのであるから、補助参加人に所属する個々の組合員も、不利益な取扱いを受けることになるものというべきである。

したがって、原告が、昭和六〇年以降、補助参加人所属乗務員から観光要員を選任していないことは、補助参加人及びその所属組合員に対する不利益な取扱いになるものといわざるを得ず、原告において、その合理的な理由を主張、立証しない限り、不当労働行為の要件である不利益取扱いの事実があるものというべきである。

(二) そこで、原告の主張する理由(観光要員の争議不参加協定の締結を補助参加人が拒んでいるとする。)について判断する。

(証拠・人証略)及び争いのない事実によれば、昭和五九年までは、補助参加人所属乗務員からも観光要員が選任されていたところ、昭和六〇年春ころ、原告は、補助参加人に対し、観光要員の選任基準について、全部で一六項目の基準を示し、その中で、事故弁済金の清算をした者との基準を立てることを求めるとともに、観光業務を円滑に進めるため観光要員については争議に参加しない旨の協定を締結したいと申し入れたこと、右観光要員の争議不参加に関しては、原告と補助参加人との間で、そのころ、あらかじめ日時指定の配車を受けていた観光要員に限りその後行われる争議には参加しないとの内容で合意したこと、しかし、事故弁済金の清算をした者という基準に関しては、原告と補助参加人との間で、事故を起した際の修理費の弁済について協定が締結されていなかったため、前年度無事故の者という意味ではないかと補助参加人が質し、原告がこれを肯定する回答をしたところ、同年の観光要員として実際に原告が選任しようとした者については、補助参加人所属乗務員からは前年度事故を起した一一名が排除されていたのに対し、別組合所属乗務員の中には前年度に事故を起しているにも拘らず選任される者がいたため、補助参加人が右一一名を観光要員に選任するように要求していたこと、このような経緯の中で、原告は観光要員の争議不参加についてのみ覚書を交わすことを要求したのに対し、補助参加人は右の事故弁済金に関する基準も含めて観光要員選任基準全体の協定を締結するように主張していたこと、原告は、同年五月一日付で補助参加人所属乗務員の中から十数名の者に対し、一旦は観光要員に選任する旨の通知書を出したが、同年六月二二日付で、日時指定の観光ハイヤーの配車を受けているときは争議に参加しない旨の覚書が締結されていないことを理由に、右の者らに対する観光要員としての選任を留保する旨の通知を出したこと、その後嘱託職員の解雇など他の問題が争議の焦点となり、補助参加人からは観光要員が選任されないままとなっていたところ、これらの問題で昭和六一年九月一三日から同年一〇月六日ころにかけて、補助参加人がストライキを行う事態となり、この争議については、原告と補助参加人との間で同年一二月三〇日付けで協定を締結し(以下、この協定を「六一年協定」という。)、一応の収束を見たこと、この六一年協定においては、事故を起した際の修理費の弁済についても合意され、この点を含めて、補助参加人は原告が昭和六〇年春に提示した観光要員選任基準に同意したこと、昭和六二年春になり、右六一年協定に則って、観光要員の具体的な選任を行うため、原告と補助参加人との間で小委員会が開かれたが、この場で、原告は、補助参加人所属組合員の中の一部に管理職に対して挨拶さえしない非礼な者がいるから、補助参加人所属乗務員からは観光要員を選任できないと主張し始め、具体的な観光要員選任が行われないまま小委員会の開催もなくなったこと、その後、補助参加人が観光要員を選任するように要求しても、原告は、再び観光要員の一切の争議不参加を持ち出すなどして、依然として補助参加人所属乗務員から観光要員を選任していないこと、本件救済命令後の事情ではあるが、平成四年一月二三日に、原告と補助参加人との間で、観光要員に選任された者は、あらかじめ日時指定の配車を受けている場合には争議に参加しない旨の覚書を締結したものの、原告は、その後も具体的な選任の作業を行わず、平成五年三月に至っても、補助参加人所属乗務員から観光要員を選任しないままであることが認められる。

以上によれば、原告と補助参加人との間では、観光要員の争議不参加協定を含む観光要員選任基準について争いがあり、このため昭和六〇年から補助参加人所属乗務員を観光要員に選任することが行われなくなってきたものではあるが、観光要員の争議不参加自体については、原告と補助参加人との間で、昭和六〇年春には、その内容を含めて合意がなされていたものというべきであり、特に、六一年協定が結ばれた後は、観光要員選任基準全体において合意ができていたものというべきであるから、観光要員の争議不参加協定が締結されていないことを理由に補助参加人所属乗務員から観光要員を選任していないとする原告の主張は採用することができない。

これに対し、原告は、補助参加人に対して、観光要員に選任された者は一切の争議に参加しない旨の協定を求めてきたものであって、このような協定は締結されていない旨主張する。しかし、原告の右主張は、右認定事実に反するのみならず、証人尚彦課長自身が、原告は一貫して、あらかじめ注文を受けて日時指定の配車を受けている場合には争議に参加しない旨の協定を求めてきたものであり、その内容での合意はあったと証言していることに照らし、採用することができない。

さらに、(証拠略)の地方労働委員会における本件審問調書中の尚彦課長及び耕平専務の供述、証人尚彦課長の証言中には、原告が観光要員の争議不参加協定を結ぶように何度も補助参加人に申し出たのに、補助参加人は、他の要求項目全部が妥結するか、或は補助参加人との間で一般的な労働協約が締結されない限り、右争議不参加協定に調印しないとして、補助参加人自らが、右争議不参加協定の締結を頑なに拒んだ旨の供述がある。しかし、右証拠の中で、耕平専務は、六一年協定後の具体的な観光要員選任のための小委員会で、原告側から補助参加人所属乗務員の一部に管理職に挨拶もしない非礼な者がいるとの発言がなされて、これが問題となり、補助参加人所属乗務員は観光要員としてサービスの面での訓練ができていないから、選任には時間がかかると判断した旨供述していること、既に認定したとおり、観光要員の争議不参加協定については、昭和六〇年春ころには実質的に合意ができていたのであって、その後、原告もこの点については取り立てて問題にしていなかったというべきであり、尚彦課長及び耕平専務の右供述は、むしろ、原告の方が、本件紛争後に形式的な覚書への調印に固執する態度を示しているものと見るべきであって、このように形式的な覚書への調印に固執する理由は見い出し難いこと、現に、平成四年一月二三日に争議不参加の覚書が締結されたにも拘らず、原告はその後も補助参加人所属乗務員から観光要員を選任していないことからすれば、原告が、補助参加人所属乗務員から観光要員を選任しないことが、右争議不参加協定の未締結を理由とするものでないことが明らかであるから、尚彦課長及び耕平専務の右供述を信用することもできない。

以上によれば、原告が、補助参加人所属乗務員から観光要員を選任していないことについて、原告主張の前記争議不参加協定未締結の事実は認められず、他に、右理由として、原告は何ら主張、立証しないから、原告が、補助参加人所属乗務員から観光要員を選任しないことに合理的な理由があったとは認め難く、右選任に関する別組合所属乗務員との差別的取扱いは、補助参加人及びその所属組合員に対する不利益取扱いに該当するものというべきである。

3  長距離配車における差別的取扱いについて

(一) 原告において料金が一万円以上となる長距離輸送について大きな比重を占めている血液及び医師の輸送については、観光要員に選任されている別組合所属乗務員にのみ配車されていることから、別表1(略)のとおり、長距離輸送業務において、補助参加人所属乗務員に対する配車に関し、別組合所属乗務員に対する配車と差異を生じさせていることには争いがないところ、既に右2(一)で認定したとおり、長距離輸送業務に従事しない場合は、これに従事する場合と比べ、相当な労働強化と精神的負担を強いられることになるのであるから、右差異を生じさせている原告の措置は、補助参加人所属乗務員に対する不利益な取扱いであるといわなければならない。

なお、やはり右2(一)で認定したとおり、補助参加人所属乗務員全員が観光要員に選ばれるものとはいえず、したがって、長距離配車を受け得る地位に立つものでもないから、右観光要員選任の差別の場合と同じように、右長距離配車の格差は、補助参加人の組合自体に対する不利益な取扱いにはなるとしても、必ずしも補助参加人に所属する個々の組合員に対する不利益な取扱いにはならないのではないかとの疑問もあり得るが、前に説示したのと同様に、補助参加人所属乗務員は、補助参加人に加入しているという一事をもって、観光要員に選任される可能性を全く失い、したがって、長距離配車を受け得る可能性が低くなって、前に認定したとおりの不利益を常に甘受しなければならない立場に立たされていることになるのであるから、補助参加人に所属する個々の組合員も、不利益な取扱いを受けることになるものというべきである。

したがって、原告が、右のとおり長距離配車において格差を生じさせていることは、補助参加人及びその所属組合員に対する不利益な取扱いになるものといわざるを得ず、原告において、その合理的な理由を主張、立証しない限り、不当労働行為の要件である不利益取扱いの事実があるものというべきである。

(二) そこで、原告の主張する右合理的理由についてであるが、これは、右格差の原因が、血液及び医師の輸送を観光要員の業務としていることの結果であって、観光要員を補助参加人所属乗務員から選任していないことについては正当な理由があるとするものであるところ、既に右2において説示したとおり、観光要員を補助参加人所属乗務員から選任しないことについては合理的な理由がないものというべきであるから、原告の右主張は採用できない。

よって、原告が、長距離輸送業務において、補助参加人所属乗務員に対する配車に関し、別組合所属乗務員に対する配車と差異を生じさせていることについて原告の右主張をもって合理的な理由があるとはいえず、他に、右理由として、原告は何ら主張、立証しないから、原告が、右格差を生じさせていることに合理的な理由があったとは認め難く、右差別的取扱いは、補助参加人及びその所属組合員に対する不利益取扱いに該当するものというべきである。

4  車両割当てにおける差別的取扱いについて

(一) (証拠略)及び弁論の全趣旨によれば、前記に認定した昭和六一年の補助参加人のストライキまでは、原告の乗務員へ割り当てられる車両については、概ね、それぞれの乗務員が担当する特定の車両が決められており、その担当車両が廃車になった際には、それを担当していた乗務員に対して新車が新たに割り当てられていたこと、しかし、右ストライキ以後、原告は、補助参加人所属乗務員に対しては、その多くの者に関して特定の同一車両を担当させることがなくなり、全体的に見れば古い車を交替で割り当てて、毎日異なる車両に乗務させるようになってきたこと、昭和六三年五月及び一二月の本社並びに北大橋、山岸及び都南の各営業所における補助参加人所属乗務員と別組合所属乗務員などとの新旧車両の割当て及び担当車両の割当て状況は、別表2(略)、3(略)のとおりであること、従前別組合所属乗務員が皆無であった山岸営業所では、昭和六三年一〇月下旬ころ、補助参加人の前年度の書記長であった者が補助参加人を脱退して別組合に加入したところ、同営業所に別組合所属乗務員九名及び嘱託二名が配属されるとともに新車七台が配車され、右前年度書記長を含む別組合所属乗務員が当該新車の車両担当者となり、さらに、同時期、同営業所に配属されていた補助参加人の前年度の副委員長は、従前担当していた車両が廃車となった後、担当を外されて毎日違う車を割り当てられていること、また、古い車に乗務するのは乗り心地が悪く、車両の担当を外されることにより毎日それぞれ調子の異なる車両に乗務することとなり、これらによる精神的負担には無視できないものがあること、同一車両を担当していれば、二日に一度は車両を洗車せずに済ますこともでき、そうすれば、終業時刻ぎりぎりまで稼働して営業収入を伸ばすことも可能であるが、毎日違う車両を割り当てられると、四〇分程度の時間を要する洗車を毎日必ずしなければならないことになり、担当車両が決まっている者より過重な労力を費やさざるを得ないとともに稼働営業収入において不利益を受ける可能性もあることが認められる。

なお、右証拠によれば、補助参加人所属乗務員の中には、初年度登録後二年程経過した、必ずしも古い車両とはいい切れない車両を担当車両として乗務している者もいることが認められ、このような者については、組合員個人として特に不利益な取扱いを受けているとはいえないのではないかとの疑問もあり得るが、右証拠によれば、これらの者の担当する車両は、極僅かの例外を除いて、前記認定の補助参加人のストライキ以前に新車として購入されたものであり、そのころ、前記認定の従前の慣行に従って担当車両として割り当てられたものであることが認められ、これと右認定事実とを総合すれば、これらの者も補助参加人に加入していることの一事をもって、今後、新車を割り当てられる可能性を閉ざされているものと推認されるところであるから、これらの者も組合員個人として不利益な取扱いを受けているものというべきである。

以上によれば、原告が、車両割当てに関して、補助参加人所属乗務員に対して、別組合員所属乗務員と異なる取扱いをしていることは明らかであり、かつ、右取扱いの結果、補助参加人所属乗務員は、精神的な負担を含めて別組合所属乗務員より過重な労働を強いられ、稼働営業収入においても不利益を被る立場にあるものといえる。

したがって、原告の右取扱いは、補助参加人及びその所属組合員に対する不利益な取扱いになるものといわざるを得ず、原告において、その合理的な理由を主張、立証しない限り、不当労働行為の要件である不利益取扱いの事実があるものというべきである。

(二) そこで、原告の主張する右合理的理由についてであるが、これは、仮に、右のとおり、車両の割当てについて差異があるとしても、観光要員に新車を優先的に割り当てている結果、観光要員となっている別組合所属乗務員に優先的に新車が割り当てられる状況となっているためであり、観光要員を補助参加人所属乗務員から選任していないことについては正当な理由があるとするものであるところ、既に右2において説示したとおり、観光要員を補助参加人所属乗務員から選任しないことについては合理的な理由がないものというべきであるから、原告の右主張は採用できない。

さらに、(証拠略)の地方労働委員会における本件審問調書中の尚彦課長及び耕平専務の供述中には、乗務員に対する車両の割当ては各営業所の所長権限であって、本社としては何ら指示していないとして、原告の関与を否定する供述があるが、他方で、耕平専務は、右証拠の中で、事故の少ない者、愛車精神のある者、苦情や欠勤の少ない者等に優先して新車を割り当てるという基準はあり、これを各営業所長に指示している旨述べているほか、別表2(略)、3(略)によれば、どの営業所においても同様の傾向を示しているのであって、各営業所長がそれぞれ独自の基準で車両を割り当てているとは認め難いところであるから、尚彦課長及び耕平専務の右供述は採用できない。

以上によれば、原告が、車両の割当てについて、補助参加人所属乗務員に対して、別組合所属乗務員と異なる不利益な取扱いをしていることについて原告の右主張をもって合理的な理由があるとはいえず、他に、右理由として、原告は何ら主張、立証しないから、原告が、右取扱いをしていることに合理的な理由があったとは認め難く、右差別的取扱いは、補助参加人及びその所属組合員に対する不利益な取扱いに該当するものというべきである。

5  原告の不当労働行為意思について

(証拠略)によれば、車両の割当てに関し、昭和六一年六月ころ、補助参加人所属乗務員の一人は、当時の原告本社営業所長から「全自交は新車に乗せない。社長の命令だ。」などといわれたこと、都南営業所においても、昭和六二、三年ころ、当時の営業所長から同様の発言を聞いた補助参加人所属乗務員がいること、本件不当労働行為救済申立のあった後である平成元年一月二〇日から二二日にかけて、原告は、就業規則に基づき勤続一〇年以上の社員に対する永年勤続表彰を行ったが、補助参加人所属組合員の該当者に対しては表彰を行わず、かつ、この永年勤続表彰は、別組合の組合員一〇〇名達成祝賀会及び新年会と同時に合同して行われたことが認められる。これと、既に認定したとおり、原告は、観光要員の問題について、補助参加人とその選任基準に合意していながら、補助参加人所属乗務員の中の一部に管理職に対して非礼な者がいるとの理由で、組合全体に関わる観光要員選任交渉を打ち切ったものであるが、このような態度は背後に差別的な意図があると考えない限り、不可解というしかないこと、原告は、長距離輸送において大きな比重を占める血液及び医師の輸送について、補助参加人所属の一乗務員が輸送先を取り違えるという事故を起したため、右業務を当時補助参加人所属乗務員が既に選任されなくなっていた観光要員の業務としたものであるが、単純な過誤に基づくと考えられる右一事故をとらえて、右業務から補助参加人所属乗務員をベテランを含めて一律に排除する結果となる右措置は、単に同種事故を防止する意図以上の、補助参加人所属乗務員に対する差別的な意図を推認させること、さらに、右1ないし4において認定したとおり、原告は、賃率その他様々な面で、何ら合理的な理由なしに補助参加人及びその所属組合員に対して不利益な取扱いを行っていることを総合すれば、右1ないし4において認定した各不利益取扱いは、いずれも補助参加人及びその所属組合員を意図的に差別する意思をもって行われたものと明らかに認められる。

6  よって、原告は、右1ないし5に認定判断したとおり、補助参加人所属組合員に対し、補助参加人に加入していることの故に不利益な取扱いをしているものといえ、同時に、これによって補助参加人の組合運営に支配介入するものといわなければならず、原告のこれらの行為は、いずれも労働組合法七条一号、三号に該当する不当労働行為であるというべきである。

三  以上によれば、本件救済命令には原告の主張するような違法はなく、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐々木寅男 裁判官 田村幸一 裁判官 貝原信之)

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